優れたコーチは課題解決をしない


課題解決の壁


 コーチングを学び、コーチを初めて半年~1年くらい経ちますと、課題解決の壁がやってきます。
 「課題解決の壁」とは私が、今、名付けた勝手な呼び名ですが、コーチング業界あるあるで新しい発見でも何でもありません。ほぼ、誰もが通る道、通過儀礼のようなものです。
 「課題解決の壁」とは何なのでしょうか

コーチングフローだけでは対応できない

 私の学んだコーチングスクールでは半年くらいかけて、傾聴・アクノレッジメント(承認)を含む信頼関係の築き方・効果的な質問・目標の作り方・そしてコーチングフローを、座学や実践を通じて学びます。ここで、一財)認定コーチの資格を取得できます。一通り型を習ったという段階です。

後藤良介 Good Time Coachingのご説明資料

 次にアサーティブネスなどのコミュニケーションスキルや、ファウンデーションの整え方、コーチの倫理規定など、実際にプロコーチとして重要なスキルを向上させていきます。半年間トレーニングすると、一財)認定プロフェッショナルコーチを取得できます。
 この段階ではある程度コーチングの経験を積んで、自信をもってコーチングフローに則ったセッションを展開することができるのですが、
この時期に共通して
「課題解決に向いてしまった」
「矢印がクライアントではなく、クライアントの周囲に向いてるね」
ということが話題になります。
これが「課題解決の壁」と名付けた現象です。

 コーチングフローで現状と目標のギャップを出した時に行動がクライアントではなく、課題やクライアントのステークホルダーなどに向いてしまうことがあります。
 例えば、クライアントが自分の思うように部下を成長軌道に乗せられないという悩みを抱えていたとします。
コーチングフローに則れば、現状と目標を埋める行動を探るため

「その方の得意なことは何ですか」
「その方の意欲が上がらない原因は何だと思いますか」

という質問が考えられます。

 しかしこの質問は、クライアントのステークホルダー側の原因に向いてしまっています。
 こうなりますと、クライアントの回答として、

「意欲が上がらないのは、クライアントに何か事情があったのではないか」
「同僚との人間関係がうまくいってないのではないか」

 など、自分のコントロール外の事柄まで思考の範疇に入ってしまうことを許してしまいます。結果、現在クライアントがもっている思考や感情を超える新しい捉え方、視点を導くことを難しくします。

問題ではなくクライアント中心に


 ではどんな質問ならクライアントに向いた質問になるのでしょうか。

「あなたはクライアントの意欲が上がるコミュニケーションをどれくらい知っていますか」

という質問ならクライアントを向いていると言えます。
似たようなことを聞いているように見えますが、この質問はクライアントのコントロール下、100%自責の範囲を聞いています。クライアントがもっていた思考を超える範囲で考えることを求めています。

また、
「あなたは(クライアント)は、本当は何をしたいのですか」
という質問も有効です。根本的なことをあらためて問い、俯瞰的に考え直すことを促します。

(もちろん彼の成長を願っているが、本当にそのような行動になっていただろうか、彼のためではなく、自分のコーチングスキルのためになっていないだろうか・・・)

というような感じです。

他にも
「あなたに原因の一部があるとしたら、何が影響していますか」
といった質問もあります。

 このようにある一定の期間にぶつかる「課題解決の壁」は
 ICFコアコンピテンシーの理解と実践によって、クライアント中心の対応へと徐々に矯正されていきます。
 私が学んだコーチ・エイでは、認定プロフェッショナル取得の後、一財)認定マスターコーチ取得までのプログラム、メンターコーチによるコーチングのスーパービジョンによって指導を受けることができました。
 ICF認定の試験では、完全なログの提出も求められますし、81問の選択肢は、ここを理解せずしてパスすることはできません。

 つまり、コーチングを継続して学習していけば、おのずと「課題解決の壁」は超えていくのです。

マーケティングへの疑問

 なぜ、コーチングの通過儀礼のような事をわざわざ取り上げたのか、その理由は昨今のコーチング界隈のマーケティングに少し疑問を感じる部分があったからです。

 今、独立しようとしているコーチに対するマーケティングが盛んです。
”売れるコーチ”を目指すセミナーは乱立しており、コーチの半分はコーチを相手にマーケティングすることが仕事なのではないかと思うほどです。

 刺激的なコピーで不安を煽ります。
 「クライアントが求めているのはコーチングではなく、課題解決だ」とか、極端なところでは「クライアントのニーズに応えるなら教えないなんて言ってられない」というようなニュアンスのものもあります。 
 コーチはコーチングスキルや、コーチングの資格があれば売れると思うのは勘違いで、クライアントが何を求めているのか考えよ、というものです。
 一見正しいように聞こえますが、もし、コーチングスキルや資格を脇に置き、安易なアドバイスに走ってしまったら、単に質の低いコミュニケーションを提供しているに過ぎなくなります。

 確かに、クライアントが求めているのは目標達成や迷い事の解決ですが、コーチングスキルの追求の前に、こういったマーケティングに晒されるのは危険だなと思ったので、自戒を込めて文章にしてみました。

 質の高いコーチングは、単に目標を達成するだけではなく、クライアントの成長を伴います。対話の中で、新しい視点を得たり、これまで経験していない行動をしたりと、成長の実感を伴いながら課題を解決していきます。自ら考え、行動し、内省するといった主体性を育み、自分の人生は自分がコントロールできることに気づきます。こういった価値を提供できるのが、コーチングだと思っています。それでこそクライアントが求める課題の解決も成し得るのではないでしょうか。


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